2006/05/23 (Tue) 「ホテルカクタス」
「僕は五番の馬を買いたかったんだけど」
言いにくそうに、2が告白しました。
「買わなかったのかい?」
きゅうりが尋ねると、2は困ったようにうつむいてしまいました。
「だって、僕は数字の2だろ。2番の馬を買ったさ。ほかにどうしようもないじゃないか」
変わっている、ときゅうりも帽子も思いましたが、口には出しませんでした。
「人にはそれぞれ事情があるな」
帽子が、重々しく言いました。
青い空です。三人の頭上近くを、カモメが旋回しています。レースごとに、馬たちが次々に出て来て、次々に走り抜けていきます。その姿は、それだけで、三人の胸を満たしました。
―江國香織「ホテルカクタス」
勤め先のランチ仲間(50代男性)に藤沢周平や宮部みゆきの時代物を借り、どっぷりお江戸の人情に身を浸している今日この頃。たまには年齢相応の本を読もうと、江國香織を読んでみました。「ホテルカクタス」というアパートで、数字の2ときゅうりと帽子が仲良くなる、ただそれだけのお話です。2がのびのびと数字の1のようになって眠ったり、きゅうりが日焼けして濃い緑になったり、帽子がニヒルに猫に思い出を語ったりしています。上の引用は、みんなで競馬に行ったシーンから。…このズレ加減、ゆるさ。江國香織だなあ、とおもいました。日本語がいろいろ間違えていてよろしくないという評論家もいますが、そんなこと言ったって仕方ないような気がします。だって、数字の2ときゅうりと帽子なんだもの。ほかにどうしようもないじゃないか。佐々木敦子氏の挿絵がたくさん入っていて、読んでも見ても可愛らしい本です。ほっとしたいときにどうぞ。

言いにくそうに、2が告白しました。
「買わなかったのかい?」
きゅうりが尋ねると、2は困ったようにうつむいてしまいました。
「だって、僕は数字の2だろ。2番の馬を買ったさ。ほかにどうしようもないじゃないか」
変わっている、ときゅうりも帽子も思いましたが、口には出しませんでした。
「人にはそれぞれ事情があるな」
帽子が、重々しく言いました。
青い空です。三人の頭上近くを、カモメが旋回しています。レースごとに、馬たちが次々に出て来て、次々に走り抜けていきます。その姿は、それだけで、三人の胸を満たしました。
―江國香織「ホテルカクタス」
勤め先のランチ仲間(50代男性)に藤沢周平や宮部みゆきの時代物を借り、どっぷりお江戸の人情に身を浸している今日この頃。たまには年齢相応の本を読もうと、江國香織を読んでみました。「ホテルカクタス」というアパートで、数字の2ときゅうりと帽子が仲良くなる、ただそれだけのお話です。2がのびのびと数字の1のようになって眠ったり、きゅうりが日焼けして濃い緑になったり、帽子がニヒルに猫に思い出を語ったりしています。上の引用は、みんなで競馬に行ったシーンから。…このズレ加減、ゆるさ。江國香織だなあ、とおもいました。日本語がいろいろ間違えていてよろしくないという評論家もいますが、そんなこと言ったって仕方ないような気がします。だって、数字の2ときゅうりと帽子なんだもの。ほかにどうしようもないじゃないか。佐々木敦子氏の挿絵がたくさん入っていて、読んでも見ても可愛らしい本です。ほっとしたいときにどうぞ。

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