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2006/08/09 (Wed) 「夜の樹」
「あなた、道化師なの、オライリーさん?」
「昔はね」彼はいった。
そのときには彼らはもうマディソン街に来ていたが、シルヴィアはタクシーを探そうともしなかった。彼女は、この道化師だったという男と雨のなかを歩きたかった。
「子どものころ、わたしが好きだったのは道化師の人形だけだったわ」彼女は彼にいった。「だからわたしの部屋はサーカスみたいだった」
「いや、道化師以外にもいろんなことをしてきた。保険の勧誘をしたこともある」
「そうなの?」シルヴィアはがっかりしていった。「それでいまは?」
オライリーはおかしそうに笑ってボールをいちだんと高く投げた。落ちてくるボールをつかんだあとも、彼の頭はまだ上を向いたままだった。「空を見ている」彼はいった。「スーツケースを持って青空を旅している。他に行くところがないときは、空を旅するんだ。しかし、この地上ですることとなると?盗み、物乞い、それに夢を売る。-それもこれもウイスキーが欲しいからさ。酒壜なしに青空を旅するなんて出来ないからね。酒で思い出した。どうだろう、1ドル貸してくれっていったら驚くかい?」「驚かないわ」シルヴィアはいった。それから次に何を言ったらいいかわからずに黙った。
―カポーティ『夢を売る女』


瓶詰めのオリーブが苦手です。でも、私が今までの人生で出会ったオリーブなんてほんのぽっちりだし、味覚は変わるものです。世界のどこかにはきっと私が好きになれるようなすばらしいオリーブがあるはず。だから、おいしいレストランに行くとオリーブを頼みます。それがオリーブと私の、幸福な出会いになることを信じて。

アメリカ文学も似たようなものです。今までに読んだアメリカ文学は、みんな風味が強すぎて苦手でした。ヘミングウェイは短編集や『老人と海』くらいの中篇までなら読めましたが、『誰がために鐘は鳴る』くらいの長い作品になってくると、最後まで「完食」することすらできません。スタインベックは、さらにだめ。給食で牛乳が嫌いになる子がいるように、学校で読まされたから嫌いなのかもと、大人になってから5回くらい根気よく読み返してみましたが、いっこうに好きな部分が見つかりません。

でも、ついに私でも読めるアメリカの小説に出会いました。『ティファニーで朝食を』の原作者として知られるトルーマン・カポーティの短編集、『冬の樹』。ただ苦いだけのお話もありますが、スタインベックやヘミングウェイに比べると、ずっと柔らかです。フロイトとユングくらいの差があります。この短編集の中では『ミリアム』がいちばん好きです。何十年も前に書かれた作品だとおもえないほど、現代的な孤立感や孤独感のある短編です。雪が降っているシーンや人物の描き方が映画的で、白や灰色やラヴェンダー色の映像が思い浮かびます。この他にも、冒頭の引用の『夢を売る女』(原題は"Master Misery"、こちらのほうが内容にあっています)、表題作の『夜の樹』など、ひとりで読むのが怖くなるようなお話が集められています。好きかと聞かれて頷けるほど好きではないけれど、少なくとも、食べることのできるオリーブです。アメリカ文学食わず嫌いのひと、食べたけど嫌いのひと、ひとくちいかがですか。

tsukuda_hachi


comment

はなびさんこんにちは。盆も正月もないMです。

そうなんですね。
ヘミングウェイとスタインベックが合わない、というのは、たいへん貴重な感性のように思われました。ぼくにとってアメリカ北部というのは、スマートで即物的で情緒もなく冷たく筋肉のように単純で機械のように感情の機微もない、といったアメリカの近代そのものですね。高速道路と高層ビルと激しいくせに平べったい感情しかないのです。それがもう日本の感性になっているのでは、と思っていました。
はなびさんひとりいるだけで、わが国も捨てたもんじゃないなと思ったりします。ちょっと古風で切ないところも感じますが、はなびさんの記事にはこころを洗われます。
2006/08/12 23:43 | URL | M [ 編集 ]

>Mさん
こんばんは。Mさんはヘミングウェイやスタインベックに
冷たさや機械的な感じを受けるんですね。私はどちらかというと
熱さ、強さ、渇きを感じます。読み終わるといつも、かんかん照りの
陽の下でブルトーザーに轢かれてぺっちゃんこみたいな気分になります。

でも、何かを苦手だったり、愛せないのは、私に問題があるのだと
おもうのです。どんなものでも、どんなひとでも、するすると受け入れる
キャパシティを持っていたいです。

そんなわけで、本もなるべく食わず嫌いをせず、古今東西のものを
読むようにしていますが、「古」「洋」は同年代のともだちに話しても、
なかなか共感してもらえません。やっぱり変わってるんでしょうね…。
Mさんのような方が目をとめて、話を聞いてくださって、嬉しいです。
これからも、いまどきの20代離れした記事をどかどかとアップして
いきますので、お時間のあるときにいらしてくださいね。
2006/08/13 23:19 | URL | はなび [ 編集 ]









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はなび

Author:はなび
犬、紅茶、写真、美術館、お風呂、本、日本語がだいすき。2006年3月から、EOS Kiss DNと一緒にたのしくお散歩をしています。文章と写真は関係がないことが多いです。写真だけをまとめてご覧になりたい方は、hanabi days on flickrへもどうぞ。

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