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2007/02/19 (Mon) 「トリアングル」
友だちにもどれないかもしれないと思えば寂し口づけなども

そのキスは、それはそれは長く、丁寧なものだった。舌の先や裏側が、角砂糖みたいにざらざらしているのは、これはやはり煙草のせいなのだろうか……なんて途中で考えはじめるほど、長い時間、私たちは舌をからませあっていた。息が苦しくなっても、一瞬クロールのように息継ぎみたいに離れるだけで、また唇の形を味わうようにしたり、ざらざらを感じたりした。

しかしそれは、二人が情熱的だったからそうなった、といううわけではない。お互い、次にどうしたらいいのか、最終的にどうしたいのか、自分に迷い、相手に迷っている時間だった。その結果、延長に延長を重ねてしまった……そんな感じである。

そして、いくらなんでも、そうはいっても、なにはともあれ、もうこれ以上は、ありえないだろう、というぐらい、長いキスのあと、ごくあっさり、私たちは体を重ねた。それは何というか、ほんの「おしるし」という程度だ。圭ちゃんは、遠慮がちに入ってきて、そそくさと出ていった。まるで、気の弱い訪問販売の人みたいに。
―俵万智『トリアングル』


短歌は短い。三十一文字しかありません。だから歌人は目に見える風景から、あるいはこころの中の風景から、印象的な部分だけを抜き出し、エッセンスを蒸留して、書かなかった部分までも語らせます。写真を撮るときに、風景から花びらの上の雫だけを切り取り、朝の寒さや冷たい雨を連想させるように。

ピントがシャープであることが価値になった歌もあるかもしれない。多くを語ったことが価値になった歌もあるでしょう。いろいろなスタイルがある中で、俵万智の短歌は、ポラロイド写真的魅力を放っているようにおもいます。決して、ハイテクではない。でも、彼女の歌は、日々の1シーンを確実に切り取っています。そして、それは柔らかです。詠まれているものが脱ぎたての下着だろうが、煮えすぎた葱だろうが、不倫の恋だろうが、彼女の歌はひどく生臭くなることがありません。まず柔らかさがあり、しばらく経ってから本質が見えてくる。

この特徴は、彼女の処女小説である『トリアングル』にも見ることができます。たとえば冒頭の引用。恋人一歩手前の2人が初めて夜を過ごすシーンです。同じ「新聞作家」でも、渡辺淳一が同じシーンを書いたら、おそらくもっと生臭くなるはず。フラッシュを焚いて撮った写真のように、あざとさまで鮮やかに写るでしょう。よしもとばなななら、多分もっとメルヘンチックになるはず。パステルのイラストのように。俵万智は生々しさとメルヘンのあいだで揺れることはあっても、極端にどちらかへは寄っていないように見える。それが彼女の書く歌が「普通」で、「リアル」だといわれる所以なのだとおもいます。

でも、『トリアングル』は歌集ではありません。ところどころに短歌が挿入されていても、本屋さんでは小説の棚に並ぶ本です。それなのに、この本では、短歌が物語を要約している。だから、読めば読むほど、小説である意義が見えなくなっていきます。三十一文字で語れることを、なぜ何ページも費やして語る必要があるのかが、分からなくなってしまうのです。おそらくは、俵万智の「切り取るちから」が、長編小説を紡ぐちからより、はるかに優れているために。

もし俵万智がまた小説を書くことがあったら、彼女の「切り取るちから」が十分に味わえるような短編集を読んでみたいとおもいます。最後に2首、この本のなかから、すきな短歌を。

辛い顔すっぱい顔がみたかったトム・ヤン・クンのクンはエビだよ
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ


plum impression #1


comment

ぼくの知り合いの歌人が自由詩を書いたのですが、やっぱりだめでした。歌を薄めているだけなのです。やっぱり言葉を結ぶ「統覚」、ピントみたいなものが詩と小説と短歌では違うと思います。訓練によるのかもしれませんが。

俵万智については、昔、新聞でとある短歌評論家と論争したことがあります。その人は与謝野晶子の足元にもおよばないといった書き方をしました。「焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き」これを本当に少女に言ったものとして読んだのです。よくそれで短歌批評なんかやってられるよ。

今週の記事はどれも濃くて内容も充実していますね。感動的な佳作ばかりです。時間が持てるようになったのでしょうか。
2007/02/26 00:52 | URL | M [ 編集 ]

>Mさん
コメントありがとうございます。
立て続けに長文を書いてしまって、見てくださる方の
目がちかちかしてるんじゃないかと心配していたので、
1人でもたのしんで(?)くださったのが分かって、
ちょっとほっとしました。

忙しさはそんなには変わりませんが、
今週はお天気と体調があまりよくなかったため、
あまりお散歩をせず、おふとんの中でポチポチと、
ケイタイでレビューを書いていました。

「焼肉と…」、印象に残る歌ですよね。
『トリアングル』で「私」と「少女」は会って一緒に
ごはんをたべていますが、口に出して伝えたとは
おもってもみませんでした。その評論家さんは、
どんな状況を想像されていたんでしょうね。
興味があります。

与謝野晶子は真剣に読んだことがありませんが、
俵万智より鮮やかで一眼レフ的な歌だったような
記憶があります。明日図書館で探してみますね。
たのしみだなー。
2007/02/26 23:10 | URL | はなび [ 編集 ]









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Author:はなび
犬、紅茶、写真、美術館、お風呂、本、日本語がだいすき。2006年3月から、EOS Kiss DNと一緒にたのしくお散歩をしています。文章と写真は関係がないことが多いです。写真だけをまとめてご覧になりたい方は、hanabi days on flickrへもどうぞ。

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